薄金ができるまで

金属加工の匠達が集い、はじめて実現できた至高の作品

1枚のジュラルミン

厚さ2mmのジュラルミン板が「薄金」になるまでには、いったいどんな工程があるのでしょう。一見単純なシンプルなデザインに見えて、実はけっこう、こだわりが詰まっています。

匠の業をもつ職人達

工作機に向かってもくもくと作業をしているのはモルファワークスの父です。真剣なまなざしで虫眼鏡を覗き込むその背中からは、質実剛健な職人のオーラが発せられています。ところが、ひとたび手を止めふりむくと、親しみやすくフレンドリーな顔に。その気さくさとユーモアに場がなごみ、自然と明るくなります。

モルファワークスには他にも10人の職人がいて、さまざまな企業からの注文品をつくっています。その中には国立天文台からの部品発注やNASAからの加工依頼なんかもあります。ドイツでできなかった仕事がめぐりめぐってまわってきたことも。国境を越えた仕事をしています。

相手がだれであろうと、どんなに難しい仕事だろうと、ちゃきちゃきと、そして、もくもくと仕事をこなすのがモルファワークスです。

1/100ミリ精度の削り

エンドミルという工具をつかって、ジュラルミン板に内溝とボタンクリアランス、そして勘合部を削っていきます。普通のドリルとちがって、エンドミルは横方向に金属を切削できるため、溝も穴も自由自在に加工することができます。その反面、とても高度で複雑なプログラミングが要求されます。

直径0.5mm、1mm、2mm、3mmの刃を使い分け、彫り込んでいきます。材料のジュラルミンはとても硬いので、ドリルの歯が折れてしまわないように細心の注意が必要です。職人の勘をたよりにしながら、幾重もの試作と失敗を経て、0.01mm精度でiPhoneにフィットする削りの極みに至りました。

全ての加工の心臓部である治具

iPhoneに似たこのかたまり(左)は、治具(じぐ)という固定器具です。フレームパーツに寸分の狂いなくボタンクリアランスを切削したり、内溝のついた凹状の金属板をきれいに曲げたり、光が均一に美しくなる鏡のように反射する鏡面仕上にするための磨き、すべての加工において心臓ともいえる大切な器具です。幾度もの試行錯誤を重ね、至高の治具をつくりあげました。

困難を極める曲げ

iPhoneと同じ美しいラインをつくるために、今回は金属を曲げつづけて100年の大島金属工業に力を貸していただきました。内溝のついた薄く、硬いジュラルミンはかなりの曲者です。曲げるときに歪んでしまったり、亀裂がはいってしまったり、何度も何度も失敗を重ねました。しかし、すこしずつ着実に治具の形や圧力に調整をかさね、ようやく思い通りの曲げを実現することができました。。プレス機に材料をセットしてボタンを押すと、20トンの圧力と精緻な治具が、1枚のジュラルミン板をフレームへと変化させます。

3つの工程から成る磨き

曲げが終わったらいよいよ磨きの工程です。今回はバフがけ一筋30年の薩摩技研さんに力を貸していただきました。

切削と曲げの加工が終わった薄金の表面は、一見滑らかで綺麗に見えますが、顕微鏡で見なければわからないほどの小さな傷や汚れが残っています。カエリと呼ばれるこれらが残っていると勘合部が噛み合なかったり、iPhone本体に傷を付けてしまう恐れがあります。また後工程の塗装の美しさは磨きの精度にかかっているため、一切の手抜きは許されません。

治具にフレームをセットしてバフがけが始まります。目には見えない小さなキズや汚れを、ひとつひとつ丁寧に手作業で取り除きます。バフがけだけでも、荒取り、磨き、鏡面仕上げ、の3つの工程があります。それぞれ研磨用バフや布バフ、研磨剤の荒さなどを少しずつ変えながら、鏡のように美しく平らな鏡面をつくりだします。機械化が進んでいる現代とはいえ、こうした緻密で繊細な作業が必要とされる行程は職人の勘と手なしでは実現することはできません。

柄の哲学

人々を魅了する柄に共通しているのは、繊細さと大胆さです。多くが手描きで描かれているのにもかかわらず、線の一本一本にまで繊細に魂が込められ、それが大きなうねりとカタチを変えて、エネルギーに満ちあふれる小さな宇宙を生み出しています。

薄金を、薄金たらしめる大切な要素は“柄”です。歴史や文化、宗教が長年積み重ねてきたもの、デザイナーの感性からにじみ出てくる混沌、そうした柄のコンセプトとなる主題を、繊細に大胆に手描きをするところからはじめています。

金属を腐食装飾する技術“エッジング”をつかって彫刻される背面パネルには、貫通穴、半彫り、マスクの3段階のレイーが存在しています。紡織と柄の進化の歴史がそうであったように、技術による制約条件は、時として柄に新しい可能性をもたらします。薄金の背面パネルの柄たちもまた、ひとつの新しい進化のカタチです。